研究紹介
心拍動開始機構の研究
個体の発生において心臓はあらゆる臓器に先立ち形成され、血液が形成される前から拍動を開始するが、心拍動の最初のきっかけについては不明な点が多い。そこで、「心臓はいつ?どのように動き出すのか?」についてのメカニズムの解明に焦点を当てて研究を進めてきた。これまでの研究成果から、ラット胎仔では、受精後9.99~10.13日目の間に心臓原基が拍動を開始することを見出した。また、拍動開始に先立って心筋を制御するカルシウム濃度の規則的な変化(カルシウムトランジェント)が開始すること、心拍動開始直前には筋収縮機構であるサルコメア構造が観察されないが、心拍動開始直後には小さなサルコメアがランダムな方向に散在していることが明らかとなった。現在は、ラット胎仔の心拍動開始期の心筋サルコメア構造の発生に着目し、代謝との関連や、最初の心筋収縮が起こると考えられる細胞の特定、サルコメア構造の発達と心筋収縮の関係など、心筋収縮装置の発生に焦点をあてて研究を行っている。
糖尿病合併心不全におけるROS-induced ROS release役割の解明
糖尿病を合併した心不全は、原因や病態に関わらず心不全の予後が悪化することが知られているが、その機序は完全に解明されていない。近年、血糖降下薬であるSGLT2阻害薬の心保護効果が注目されているが、非糖尿病合併心不全に対しても同等の効果が期待できることがわかってきた。従って、糖尿病合併心不全にはSGLT2阻害薬等の心不全標準治療を行ってもなお "残余リスク" が生じていることとなる。心不全パンデミックと形容される心不全有病率増加の中、予後不良である 糖尿病合併心不全に対する『特異的』な治療戦略の確立は重要課題である 糖尿病では心臓を含む諸臓器で活性酸素種 (ROS) の産生が増加し、酸化ストレスが亢進することが知られている。ROSの源は、細胞質、ミトコンドリア、細胞外由来など様々な種類があるが、それらが心臓を構成する細胞のミトコンドリア内膜および呼吸鎖複合体に作用し、電子伝達効率の低下と電子漏洩を介した更なるROSの発生を惹起させうる (ROS-induced ROS release:RIRS)。本研究課題では、このRIRSがミトコンドリア機能障害が糖尿病合併心不全の予後不良の病態に関与し、新規治療標的になり得ると仮説を立て、この機序を明らかにするための研究を進行中である。最終目標は、糖尿病合併心不全の病態解明、そして新規治療戦略確立を目指す。
各種疾患モデル(各種領域の癌、眼科疾患、皮膚疾患、炎症疾患、呼吸器疾患、代謝疾患、腎疾患、間葉系細胞、老化など)における細胞外フラックスアナライザーを用いたミトコンドリア呼吸能評価
講座間の共同研究として、動物実験施設部およびIRBで承認された研究に対し、生体組織(動物モデル、ヒト)由来の各種細胞、組織からの単離ミトコンドリア、あるいは培養細胞(二次元培養、三次元培養)に対して、細胞外フラックスアナライザー適応し、ミトコンドリア呼吸能?解糖能および予備能などの代謝機能解析を展開している。細胞機能評価の観点から、代謝機能評価を行い、共同研究として成果を共有?発表している。
二次性サルコペニアにおけるエネルギー代謝機構の解明
筋肉量と筋力の低下で定義される『サルコペニア』は、原因によらず、生活の質を低下させるのみならず、慢性疾患の予後にも大きな影響を及ぼすことが知られている。その一方で、エビデンスの高い治療法は確立せず、超高齢化社会を迎えた本邦において大きな課題となっている。サルコペニア発症の分子機構について、骨格筋の興奮収縮連関を支えるエネルギー代謝機構は未だ明らかではない。筋生理学的アプローチ、非バイアス的かつ網羅的代謝物解析、ミトコンドリア機能解析の観点から包括的な実験を行い、骨格筋萎縮における脂肪酸?アミノ酸?核酸代謝を中心としたエネルギー代謝機構の全容を明らかにしたい。
全身性疲労の病態解明と新規客観的バイオマーカーの確立
疲労は 『肉体的?精神的活動および疾病によって生じる不快感と休養の願望を伴う身体活動能力の減退状態』 と定義され、日常生活に関連する。しかし、疲労の客観的なバイオマーカーは十分に確立されていない。このような中、最近、365bet体育投注_亚博足彩app-官网|直播感染症(COVID-19)の後遺症として、疲労感が持続するいわゆる 『Long COVID』 が社会問題となっている。また、疲労は、運動不足、不規則な食事、睡眠不足といった「生活習慣」だけを理由にするのはstigmaに該当する可能性がある。近年、疲労とヘルペスウイルスの再活性化の関連が注目されたり、慢性疲労症候群の治療薬として抗CD20モノクローナル抗体を用いた治療が着目されるなど、 疲労と炎症 の強い関連が示唆されている。 本研究課題では、様々な疲労モデルを用いて、疲労の病態解明およびバイオマーカーの探索を試み、根拠のある治療介入法の足掛かりとなることを目指している。